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生きがい就業を介護予防へ活用

なぜシルバー人材センターの“生きがい就業”なのか

シルバー人材センターにおける就業には、高齢者の自尊感情や社会的存在感などの幸福感を高める効果が認められており 1)、最近では、医療費や要介護認定者の割合を低くする可能性も報告 2)されています。町田市シルバー人材センターでは、公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団(以下、ダイヤ財団)と共同で、2006年から介護予防に焦点をあてた研究プロジェクトを開始しました。その理由は、シルバー人材センターの支える「生きがい就業」が、国の介護予防施策の欠点を補う要素を持っていると考えたためです。

平成18 年の介護保険法改正では、要支援・要介護状態へ移行するリスクが高い「特定高齢者(二次予防事業に改称)」層を抽出し、早期介入を行う介護予防事業を創設して、これを含む地域支援事業に500 億円規模の予算を計上しました(図表1)。しかし、介護予防事業は利用者が集まらず、各自治体は予算未消化のまま事業は停滞を続けています。この原因として、特定高齢者というレッテルを貼られることに対する拒否感、予防プログラムそのものの中に喜びを見いだせない、あるいは個人の内面的な幸せを高めることにつながらない等の課題が指摘されています。また、介護予防事業は3 か月程度で終了しますが、その後の受け皿となる一般高齢者施策(一次予防事業に改称)も整備されていないため、せっかく改善した機能状態が、しばらくすると元に戻ってしまうという問題点も抱えています。

図表1 日本の介護政策の体系

図表1 日本の介護政策の体系

一方、我が国では70 歳以降でも「就業」意欲が旺盛であり(図表2) 3)、その多くが「健康維持」を目的としていることが知られています。したがって、「生きがい就業」を、介護予防事業参加後の受け皿あるいは介護予防事業とすることができれば、ポジティブなイメージを持った人気プログラムとなる可能性が高く、さらに事業終了後も正式な会員として登録し、短期的な就業を継続するという選択肢も見えてきます。そして、地区単位の拠点を持ち、3,000 人以上の会員をコーディネートし続けている同市のシルバー人材センターは、その提供主体として十分な潜在能力を持っていると考えます(図表3)。

  1. 1)岡 眞人編著『高齢期の就業と生きがい』シルバー人材センター新規加入者アンケート調査最終報告,横浜市立大学経済研究所(1998年)
  2. 2)社)全国シルバー人材センター事業協会『シルバー人材センター会員等の健康維持・増進に関する調査研究報告書』(2006年)
  3. 3)内閣府「平成20年高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」(2009.12)

図表2 いつまで働いていたいか(内閣府調査)

図表2 いつまで働いていたいか(内閣府調査)

図表3 シルバー人材センターの拠点としての優位点

図表3 シルバー人材センターの拠点としての優位点

さらに、公的事業である介護予防事業の取り込みは、シルバー人材センターにとっても重要です。当初は定年直後の60 歳から64 歳を中心層としていたシルバー人材センターも、会員の平均年齢が70 歳を超え、就業会員の一定割合を75 歳以上の後期高齢会員が占めるなど高齢化が進行しています。現在のシルバー人材センターには、働く意欲の高い前期高齢者への技能講習(シニアワークプログラム)等を通じた労働市場の開拓という役割に加え、会員継続を希望する後期高齢層に対する就業機会の確保が重要な課題となっているのです。

図表4 介護政策の課題とシルバー人材センターの生きがい就業

図表4 介護政策の課題とシルバー人材センターの生きがい就業

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【ワンポイント解説:シルバー人材センターにおける就業】

シルバー人材センターは、高齢者が社会に支えられる存在となるだけではなく、社会を支え、互いに助け合うという「自主・自立・共働・共助」の理念を掲げて活動しています1)。したがって、シルバー人材センターの会員にとっての就業は、その構成員として、ひとり一人が運営主体として就業を通じて理念の実践を行っているといえます。2-4)たとえば、会員はセンターから紹介された仕事を必ず受けなければいけない訳ではなく、自身のライフサイクルに合わせ、仕事を引き受けるかどうか会員が自由に選択できます5)

就業の仕組みは、シルバー人材センターが企業や各家庭から仕事の発注を受け、会員に仕事の依頼を打診します。会員が仕事を受け、実際に就業するとセンターから配分金を得ることができます。配分金とは、発注者である企業、各家庭からシルバー人材センターへ支払われた契約金から個々の会員に配分される金額を指します3)。このように、発注者と会員の間には相対契約となる雇用関係は発生せず、就業先での仕事のノルマや、仕事の強制が存在しないといった特徴があります2.3)

さらに、シルバー人材センターの就業は、臨時的で短期的、軽易な作業に限られており、仕事の内容として、施設管理や植木の手入れ、事務作業などが代表的です6-9)。その他の仕事内容では、各シルバー人材センターの特徴、地域の特徴を活かした業務などの公共的な仕事もあります3.10)。このような幅広い職種の中から、会員は自らの体調、関心のある職種を選択して、自分のペースに合わせて就業することができます11)。また、「自主・自立・共働・共助」の理念の通り、会員同士で支え合うグループでの就業も多く、体力に自信のない高齢者でも安全に就業できるよう十分な配慮がなされています12)

参考文献

  1. 1)吉田徳博(2005). シルバー人材センターにみる高齢者の就業と地域社会への貢献. 法律文化. 17(7) . 24-27
  2. 2)秋山憲治(1998) . “新しい労働”の位置−職業労働と非職業労働の再考のために−. 社会学評論. 49(2) . 238−254
  3. 3)公益財団法人 東京しごと財団(東京都シルバー人材センター連合)(2012). Silver−あなたのまちのシルバー人材センター−
  4. 4)荘家怡. 田中豊治(2012). 高齢社会におけるシルバー人材開発の日台比較研究. 佐賀大学文化教育学部研究論文集. 13(1) . 443−473
  5. 5)全国シルバー人材センター事業協会. シルバー人材センターの会員組織と働き方.URL: http://www.zsjc.or.jp/about/about_04.html
  6. 6)独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(2008). 島根県におけるエイジフリー社会に向けた雇用・社会活動に関する調査研究報告書. 第3章 高齢者の雇用労働問題とジルバー人材センターの機能化―エイジフリー社会におけるシルバー人材センターの役割―
  7. 7)独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(2010). 首都圏におけるエイジフリー社会構築に向けた就業・社会活動に関する調査研究報告書. 第1章 調査研究の目的
  8. 8)秋山憲治(2003) . 社会的な諸労働の総合研究−The Synthesis of the Various Types of Work−. 第3章高齢者就業問題とシルバー人材センター組織の機械化. 早稲田大学大学院 博士(人間科学)学位論文
  9. 9)小林謙一(1991). 在宅福祉サービスの展望とシルバー人材センターの課題. 経済志林. 59(2). 143−172
  10. 10)小林謙一(1987). 高齢者事業団の二つの類型−シルバー人材センターと高齢者雇用福祉事業団の組織と運営−. 経済志林. 55(2) . 25−68
  11. 11)山口春子(1990). 退職高齢者の生きがい就労制度の展開:シルバー人材センター制度に関する考察. 人文学報 社会福祉学. 5. 183−198
  12. 12)針金まゆみ. 石橋智昭. 岡眞人. 長田久雄(2009). 都市部シルバー人材センターにおける就業実態−性・年齢階級による検討−. 老年社会科学. 31(1) . 32−38

【ワンポイント解説:二次予防事業】

要支援・要介護認定を受ける人々を減少させるために2006年4月の改正介護保険法で創設されたのが「介護予防事業」です。高齢者全体を対象とする「一次予防事業」と悪化の危険性の高い対象者向けの「二次予防事業」に大別されます。二次予防事業の対象者は、送付された基本チェックリストから厚生労働省の基準によってその候補者が選定されます(詳細は、『健康・生活アンケート』参照)1)。二次予防事業の候補者となった人は、自治体が用意した多様なプログラムのなかから選択して、その事業に参加することが出来ます。

自治体における二次介護予防事業の取組み事例は厚生労働省のWebサイトにも公開されています2)。その例を幾つか挙げてみますと、まず最も行われているのが「運動機能向上」のプログラムです。高齢者における筋力低下や腰痛や膝痛の症状は、日常生活の動作を低下させる主要因といえます。これら、日常生活に必要な最低限の体力維持・増進を目的に運動実施の促進や動機づけなどを行うのが運動機能向上のプログラムです。また、運動が認知症の予防に有効という報告3)もあり、複合的な効果も期待されています。次に「口腔ケア」も代表的なプログラムの1つです。歯の本数が少ないほど要介護認定のリスクも上昇するという報告4)があり、口腔機能の向上は重要です。実際のプログラムでは、脱水・低栄養状態を回避することに加えて、食べる楽しみを得ることを目的に、日常生活内でのケアの重要性の再認識、口腔清掃や効果的な摂食・嚥下機能の向上訓練の教室が行われています。また、栄養指導に関しても食事の内容や調理方法だけでなく、食事の摂取量増加、低体重予防に重点が置かれています。そのほかのプログラムには「うつの予防や支援」もあります。高齢者のうつは、閉じこもりや身体の不調とも関係が深いと考えられており、介護予防事業として市町村の心の健康相談窓口の積極的な利用が呼び掛けられています。

参考文献

  1. 1)厚生労働省.介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月)について.http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/tp0501-1.html(2013年5月現在閲覧可能)
  2. 2)厚生労働省.介護予防の効果的な取組事例.http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/yobou/torikumi.html(2013年5月現在閲覧可能)
  3. 3)Erickson KI, Voss MW, Prakash RS, Basak C, Szabo A, Chaddock L, Kim JS, Heo S, Alves H, White SM, Wojcicki TR, Mailey E, Vieira VJ, Martin SA, Pence BD, Woods JA, McAuley E, Kramer AF.(2011). Exercise training increases size of hippocampus and improves memory. Proc Natl Acad Sci USA. 15;108(7):3017-3022.
  4. 4)Aida J, Kondo K, Hirai H, Nakade M, Yamamoto T, Hanibuchi T, Osaka K, Sheiham A, Tsakos G, Watt RG.(2012). Association between dental status and incident disability in an older Japanese population. J Am Geriatr Soc, 60(2): 338-343.