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Topic Report取材・執筆:五十嵐裕

高齢者のスポーツクラブ利用

近年のスポーツクラブ店舗数の増大により,高齢者の利用者数は増加している。

一般家庭向けに料金が設定され,1980年代,1990年代と比較して大幅に店舗数が増えた民間スポーツクラブ。しかし,2013年発表の経済産業省の産業活動分析によれば,店舗数は上昇傾向と推移しているものの,売上高は今後減少に向かうと推移している。その理由として近年の大幅な店舗数増加で競争が激化したことや,2000年代後半の不況によって利用者が減少したこと,運動継続が困難による退会者の増大といった理由が考えられ,各社は今後の利用者確保が1つの大きな課題となっている。特に高齢者における利用者の割合は,どのクラブにおいても高く,今後,高齢者の獲得や彼らをターゲットにしたサービス展開がスポーツクラブの経営に大きく影響していくことは間違いない。最近の各社スポーツクラブは様々な工夫により,高齢者会員の獲得に力を注いでいる。

施設の工夫

確かに我が国における高齢化は社会的に大きな問題となっており,現に医療費の世代別割合のうち実に半数が高齢者で占めている。国の政策においても疾病を有する,もしくは要介護の高齢者を減らすことは取り組むべき大きな目標であり,2006年の介護保険法改正は介護予防を重視した内容になっている。身体活動の増大が疾病予防や介護予防に有効であることは多くの研究で明らかとなっており,2012年発表の健康日本21では週3日以上の運動を行っている60歳以上の割合は約40%と他の世代と比べて高くなっている。よって今後,運動を行う高齢者,もしくは行いたいと思う高齢者は,より一層増加していくものと考えられる。民間スポーツクラブでは,このような高齢者のニーズに応えるべく,従来の運動に関する業務を重視した民間スポーツクラブに焦点を当て,その取り組みについて紹介していきたい。

高齢者においては健康志向の強まりを背景に利用者が増加しており,彼らに特化した施設も増えている。例えば,スポーツ施設と併設した温泉(スパ)やマッサージ等の施設,コミュニケーションや座談が可能なスペースの設置といった運動以外の場を積極的に展開するスポーツクラブも多い。このような状況下について,クラブ側はコミュニケーションの場が病院からスポーツ施設へと移りつつあると分析している。つまり,従来の「運動の場」よりも「憩いの場」という要素を最優先にした新しいクラブづくりといえる。

こうした「憩いの場」としての提供をすると同時に本来のクラブの役割である「運動の場」や「運動指導」を重視し,運動を通じて高齢者の健康をより高めていく目的で施設を展開する民間スポーツクラブもある。

新しい運動提供への取組み

株式会社ルネサンス(以後,ルネサンス)は全国におよそ120店舗を展開する民間の大手スポーツクラブである。会員数は2013年3月末で37万人が在籍し,うち25%が60歳以上の会員で占めている。スポーツ施設の運営・管理をはじめ,施設内での運動指導,運動指導者の育成,関連商品の販売,トラベル事業を主な業務としている。また,2006年の介護保険法改正に合わせ,高齢化社会を担うスポーツクラブとして,新たにヘルスケア事業の関係部署を発足し,各自治体からの介護予防教室の受託,およびその指導者の育成業務にも力を入れている。

シナプソロジー

ルネサンスが独自に開発した脳活性化プログラム。高齢者の認知症予防のみならず,幼児からアスリートまで利用者の幅は広い。

ルネサンスは若い人だけでなく高齢者も楽しく利用しやすいようなクラブづくりに取り組んでいる。例えば,既存の施設での改修の際のレイアウト変更では、できるだけ会員同士が交流を行う空間づくり(ラウンジやソファの設置など)を心がけている。また,運動効果を得るためには運動方法だけでなく,習慣化や継続も重要な要素と位置づけている。参加者に合わせた運動指導の他に,測定結果を基にしたアドバイスや期間を通じての変化をフィードバックするといった取り組みを積極的に行っており,運動の効果を実感してもらうことで今後の新たなる運動習慣の動機づけを促していく。また,独自のプログラムを開発し,現場へ導入することにも前向きだ。中でも五感に刺激を与え身体を動かし脳を活性化する「シナプソロジー」は,あらゆる世代に人気のプログラムであり,高齢者においては認知症の予防が期待されるという。

介護予防教室(運動)

民間スポーツクラブによる運動教室の開催は,これまでの指導ノウハウを活かした質の高い教室といえる。ルネサンスではより効果的で安全な運動教室の実施を心がけており,そのため講師は健康運動指導士、介護予防運動指導員等が担当する。

一方で運動を効果的に,かつ安全に行うための,指導者育成にも積極的だ。特に自治体から委託された介護予防教室のうち,運動指導を担当するスタッフは独立行政法人 東京都健康長寿医療センター認定の「介護予防運動指導員」の取得を必須としている。これは質の高い高齢者筋力向上等トレーニングの実施を支援する運動指導者育成の事業であり,ルネサンスは,この講習会の指定事業者として,近年多くの指導者を輩出している。

民間スポーツクラブは一企業であり,当然収益の確保を考えなければならない。そのため,人口の少ない地方での新規出店は難しいのが現状だ。高齢化率が著しく高い地方においては,より一層の介護予防の施策が必要となるが,運動する施設が少ないという状況下にある。ルネサンスでは新規の事業として,地方,特に店舗が存在しない地域においては,自治体からの受託された介護予防教室の開催に力を入れている。介護予防教室は運動のみならず,栄養・口腔教室,転倒予防教室,認知機能向上教室と多岐にわたっている。講師は有資格者である自社スタッフ,および開催地である地元の登録スタッフが担当する。指導以外にも,体調面,心理面,欠席者の管理といった高齢者特有のケアも重視しているという。

デイサービスの展開

従来のデイサービスとは異なり,リハビリや運動による機能改善に特化した施設。今後,全国へ積極的に展開していく予定。

また,今後は運動に特化した介護保険適応のデイサービスも積極的に展開していくという。場所を既存の施設近隣にすることで,機能回復の他に,同社の既存のクラブへの入会を促し,他の会員と同様に施設を利用してもらうことで会員数増加を見込んでいる。これは,デイサービス利用者にとっても機能回復へ大きな動機づけとなっている。

今後の展望

このように,わが国において高齢社会が進むにつれて,今後もスポーツクラブが多様化していくことが予想される。冒頭で述べたが高齢者にとってスポーツクラブは健康づくりの場だけではなく,交流の場としても重要な拠点といえる。しかし,両者にはスポーツクラブ独自の密接な繋がりもあるようだ。

ルネサンスに通い始め3年になる60歳代後半の女性は,かつて事務職での長時間の座位や極度の手作業が大きな負担となり,一時は腕を拳上することさえ困難となった。仕事引退後は家族の勧めもあり,ルネサンスへ入会した。「入会当初はスタッフの方々からストレッチングや運動方法を教わりましたが,全く身体が動かず,本当に恥ずかしい限りでした。しかし,数か月後には少しずつ機能改善が実感できるようになりました」,一方で「今まで仕事が忙しく,近隣の方々とふれあう機会がなかったのですが,入会してからはかつての知り合いや新しい友人もたくさんできました。運動する目的で入会したのにいつの間にか自分にとって大事な憩いの場になっていました(笑)。今後もスポーツクラブを拠点に健康づくりと交流づくりを両立させていきたいです。」と語る。このように運動を継続することで自然に交流ができることも高齢者にとって大きな魅力であり,スポーツクラブが今後の超高齢社会において重要な拠点となる可能性がある。

このようなスポーツクラブの現状,および今後の展望や役割についてルネサンスの経営企画部広報担当者はつぎのように語る。

「本年6月、政府が進める成長戦略「日本再興戦略」の戦略市場創造のための4プランの第1に「健康寿命の延伸」が掲げられました。健康寿命は日常的に介護を必要としないで、自立した生活ができる生存期間のことです。日本は長寿国と言われており、平均寿命も確かに世界でトップですが、健康寿命は10歳も下回っています。少しでも長く、元気に健康で過ごすためには、やはり「運動」は欠かせないものになるでしょう。フィットネス業界にとっては、大きなビジネスチャンスと捉えています。ただ、だからといって施設を作っていらしていただくのを待つ、というだけでは事業の成長はあり得ません。スポーツクラブが担うべきことは、少しでも多くの方に体を動かす「楽しさ」を伝える事、そして運動を続けていただくことで確実に「効果」を出すことです。地域の健康づくりをどこまでサポートできるかがカギになってくると思います。」

最近の新聞には「シニアの居場所」をテーマとした記事が多くみられるようになった。ファミリーレストラン,ゲームセンターといったかつては若者向けの商業施設に多くの高齢者が賑わう光景は決して珍しくない時代になっている。スポーツクラブは憩いの場のみならず,健康づくりの役割も同時に果たすことが期待され,他とは異なる一面を持った場といえる。

現在,日本全国には3,000を超えるスポーツクラブの施設が存在するという。今後,運動や憩いの場として,今以上に多くの高齢者が利用することが予想される。スポーツクラブが地域の高齢者に対する健康づくりや交流に果たす役割はより一層大きなものとなっていくだろう。

(取材・執筆:五十嵐裕)